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「肩書きは『ロマンティッククリエイターズ』」-TRICKY・中村文子さん

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■八王子にはデザインの可能性を感じた

 中村さんが東京造形大学(宇津貫町)に在学中の2007年、地元商店会などと連携して八王子駅北口のペデストリアンデッキ「マルベリーブリッジ」で行われるイルミネーションなどを担当したことから生まれた「TRICKY」。約30年にわたって使われていなかった一軒家に2008年4月、靴店「うさぎや」(八王子市明神町2)の小俣能範さんによる若手経営者向けの経営ノウハウなどを教える塾「お店よろし塾」と場所をシェアする形で活動は始まった。

-学生の頃はどんなことをしていたんですか?
中村 「専攻は室内建築。ファサード、ランドスケープとか家具を作ったり、とか…そういうことをしていました」

-今の活動につながるきっかけは何ですか?
中村 「在学中に八王子の商店街からイベントの企画があるからやらないかというお話が来たんです。それとは別に八王子市長との『ふれあいトーク』というのにも授業の一環としていろいろ作らせていただいていて…。それらで商店街の皆さんにサポートしていただいたという経緯があり、終わった後にお疲れ会があったんです。その時、『若い子が集まって制作できるようなアトリエを作りたい』というお話をお伺いして、私も何かを作っていくことを続けていきたいと考えていたので、それがきっかけになりました」

-普通の学生だと就職に向けて動いている時期ですよね。
中村 「3年生の時にどうしようかなと思って就職活動をするための資金も作っていたんですけど、それで就職用のポートフォリオを作るためにプリンターを買うか東南アジアに旅行に行くかどうしようか悩んだ末に東南アジアに旅行に行っちゃって。一応、社会を知るために就職活動もして、こういう人たちが社会を回しているんだなとか思ったんですが…」

-八王子に残る道を選んだ。
中村 「八王子にはデザインの可能性があると感じていました。この街でもっとできること、デザインの可能性を伸ばせると。ただ、今は会社として動き出しているんですけど、その頃は会社を始めるつもりはなくて、楽しいことを続けていこうという気持ちのほうが先決していましたね」

-皆さん生まれ育ちは違うのに八王子への思いが強いですよね。
中村 「私、地元が下町のほうなんですけど、人情味あふれる人が多くて、暖かい感じとか優しさみたいなのが地元の空気と似ているんです。学生の頃はチェーン店だらけとかあまりいいイメージがなかったんですけど、いろんな人からお店を紹介してもらったら、個人でやっているお店には暖かいところが多くて面白くてはまってしまいました」

-特に八王子駅南口への思いを強く感じます。
中村 「南口はのどかで居心地が良いし緑もあって自由。ちょっと留守にしていても、『こういう人が来ていたよ』と周りの人が教えてくれたりとか。温かくて信頼できる。それが魅力です」

■人の記憶に残る仕事

 「TRICKY」が取り組んできた仕事には、「るるぶ八王子」のほかにも広告や店舗の看板、名刺など地元に根付いたものが多い。

-この2年間でどんな仕事をしてきたんですか?
中村 「八王子の皆さんと作ってきたものが多いです。イベントの企画や看板、ファサード、広告、ホームページの制作とか。アットホームな街なので、いきなりピンポンと尋ねてきて『ここでデザインやっていると聞いたんだけど』とお話をいただいたり」

‐ずいぶんと緩いですね。
中村 「ほとんどが八王子の皆さんがいてくれるからできた仕事で、まず出会えなかっただろうという人ともいろいろなきっかけでら出会うことができました。このような出会いのおかげで今の仕事ができているのかなというところがあるので、それについては心底感謝しています」

-思い出に残っている仕事はなんですか?
中村 「八王子の『るるぶ』を作ったこと。イラストマップを作るということで、北口と南口と甲州街道のおすすめのお店を紹介するというお話だったんですが、紹介したいお店を集めたら最初300店舗くらいになっちゃって(笑)。自分たちの好きなお店をたくさん紹介できるというのはすごくうれしいことで願ってもないお話でした」

-どういうきっかけで来た仕事だったんですか?
中村 「『idol』というフリーペーパーを作っていることもあって、JTBの方に『面白いお店知ってそうだから聞いてきなよ』とおっしゃってくださった方がいたんです。そこで実際にお会いして、2、3時間くらい面白いお店の話を一方的にしていたら、せっかくだからまとめて教えてくださいという話になって…」

-取材はどうやって進めたんですか?
中村 「取材といってもほとんどのお店は知っているところばかりです。真夏のすごく暑い日にタオルを首にかけながら、おなか一杯で幸せという日々でした(笑)。行く途中で新しいお店を見つけたらまた入ったりとか。すごく親切な薬局とか普通は紹介しないようなお店も紹介したので、喜んでくださる方が多かったのでうれしかったです」

-るるぶ以外でも、子安神社の京王線の中づり広告もインパクトがありましたね。
中村 「先方が遊びの感覚を取り入れてくださったおかげインパクトのある広告を採用していただけました。京王線の車内で見た時はすごく感動しましたし、たまたま飲み屋で出会った方が広告を気に止めていてくださり『あれは記憶に残る広告だね』と熱弁してくださって…。人の記憶に残る物を作れたのはうれしかったですね」

■フリーペーパー「idol」

-昨年からフリーペーパーも出していますよね。
中村 「1年目は毎日八王子で遊んでいるような日々だったので、面白いお店とか感動的なエピソードを持ったお店をたくさん知れました。その感動を感じたままに紹介したいと思って作ったのが、好きなものだけ勝手に特集する『idol』です」

-個性的な店を毎回取り上げられていますけど、店はどうやって見つけているんですか?
中村 「自転車ですね。打ち合わせに行く時、わざわざ最短コースを通らないでぐるぐる回ったり」

-どのような店を取り上げているんですか?
中村 「お店がただおいしいからだけじゃなくて、店長さんが面白いとか人間に魅力があるから特集したくなっちゃうとか。すごく魅力的な人って魅力的な料理だったり空間を作れたりする人だと思うので、その人自身が作り上げた良いものを私たちが特集しています」

-これからの目標はありますか?
中村 「idolを1冊の本にしたいねって。それが本屋さんに並んだらうれしいですね。あと、『idol holiday』っていうウェブでしか見られないものをやりたいなと。いろんなことを勝手に紹介していくとか緩い感じですが、ページ構成を考えたらものすごく構想が大きくなっちゃって…。3人が『うん』って言ったら始めます」

■人が好きだから、人が集まる

-4月末に行われた2周年記念イベントにはたくさんの人が訪れました。
中村 「私たちもびっくりしました。すごくうれしかったです」

-「TRICKY」にはいろいろな所から人が集まってくるイメージがあります。
中村 「多分、私たちが、人が好きだからだと思います。『idol』を配る時も郵送しちゃえば楽なんですけど、いろんな人に会うことが楽しみだし顔を見てお話しすることで交流を深めていって。お互いの信頼とか関係性が深かったりするので、気軽に尋ねて来られるし私たちも気軽に行けるというところがあるんだと思います」

-仲間が増えますね。
中村 「仲間がどんどん増えていくというのは大きな目標。南口のこの辺には誰も使わずに何十年もそのままという家が多くあるらしいのですが、そういう一軒家にアーティストたちが入って、物作りをしていく所がもっと増えていったら面白いなっていう話を今めちゃくちゃ言いまくってます」

-それは興味深いですね。
中村 「そういう人たちがどんどん増えていって、面白いお店に楽しい人が集まってわいわいしている感じが広がっていたら楽しいですね。」

-自分のことはどう説明しているんですか?
中村 「最近『ロマンティッククリエイターズ』という肩書で落ち着きました。ここのアトリエも内輪では『デザイナーズキャッスル』と、今年から呼んでいます(笑)」

-いい肩書ですね。
中村 「経営も考えないといけないということを3年目にして気付きました(笑)。でも『仕事』っていう意識ではなくて、これからも楽しいなぁって思えるものを作っていきたいです」

-ありがとうございました

【取材後記】

 「TRICKY」はクライアントも制作者も八王子といったように地元に密着した形のデザイン活動を2年間にわたって続けており、今では企業だけではなく、行政や教育機関、学生や個人などさまざまな人たちが彼女たちを介して結びついている。既にデザイナーユニットという言葉の枠に収まりきらない活動を行っている彼女たち。新しい時代の街づくりの形が彼女たちの姿から見えてくるかもしれない。

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