今月末で閉店すると発表し話題を呼んでいた銭湯「松の湯」(八王子市小門町)に10月29日、「しばらくの間閉店は延期致します」(原文ママ)と書かれた張り紙が掲示され、11月以降も営業を継続することが分かった。
1954(昭和29)年創業の同店。八王子に3店ある銭湯のうちの一つで、市内を通る甲州街道(国道20号)「本郷横丁東」交差点そば、八王子駅と西八王子駅のちょうど中間に位置する。
10月を前に突如、店の掲示板に「閉店のお知らせ」と書かれた張り紙を掲出。今月30日で営業を終了することが発表された。利用者の中には「やめないでください」などと店にメッセージを残す人も現れたほか、ネットでも「悲しすぎる」「今年一番のショック」(以上、原文ママ)などと惜しむ声が上がった。
今月18日からは利用客有志が店頭で存続に向けた署名運動を開始。「いつもぴかぴかで、お客さんでごった返している店が何でやめるんだと思った」と活動を始めた井上博正さん。「店主と話はしていたが、実力行使に出るしかないと思って、『悪いけど店に署名の用紙を置かせてくれないか』と頼んだ」と話す。
初日だけで150人から署名が寄せられるなど大きな反響を呼び、「八王子市内から満遍なく来ていただいた。中には足立区から自転車で来た人も。せっかく風呂に入ったのに汗だくになるんじゃないかと思った」と振り返る。
署名活動は「風呂の日」に当たる今月26日まで実施。8日間で2300人から存続を望む声が集まった。「この数を見て、やっぱり重いものがあるということになったのだと思う」と井上さん。営業継続が発表されると、店には「これからもよろしく」とメッセージが付けられた花が贈られるなど喜びムードに包まれた。
「松の湯は深さ150メートルの井戸から水をくんでいて地震に耐える能力もあるし、燃料もガスでもまきでも石炭でもなんでも使える。自家発電装置も持っていて、東日本大震災による計画停電の時も、電力がある間にタンクに水をくみ上げて営業を続けていた。防災対策という意味でも風呂屋には生き残ってもらわないと困る」と井上さん。
「八王子はこれまで22店の銭湯を見送ってきたが、防災なども考えると行政も『やめます』『はい、そうですか』とするのではなく、ぴかぴかで客が多いところはなんとか生き残れるように取り扱ってもらいたい。今後、この2300人の署名を持って活動していきたい」と意気込む。
営業時間は14時~24時。