八王子在住の松浦恵介さんが6月20日、写真集「猫の園があった-新潟・五十嵐 白黒フィルムの猫たち 1980年-」を清水工房(八王子市追分町)の出版事業部門「揺籃(ようらん)社」から出版した。
完成した写真集を持つ松浦さん
新潟県出身で、2013(平成25)年に八王子市内のニュータウンをテーマとした写真展を銀座ニコンサロン(中央区)で開くなど精力的に活動している松浦さん。今回は新潟大学在学中の1978(昭和53)年末から1982(昭和57)年初頭にかけて、街の中にいた猫を被写体としたモノクロ写真を一冊にまとめた。
当時、大学への進学祝いとして買ってもらった35ミリ一眼レフカメラ「オリンパス OM-1」を片手に撮影を楽しんでいたという松浦さん。撮影テーマの一つを「猫」にしていたという。「今は野良猫を見かけないが、当時はいっぱいいた。人間と生活空間がかぶっていたので、同居ではないが近所付き合いをしている感じがあった。家族じゃないが、猫から怪しまれるような関係でもないという面白い距離感があった。目の前にいたから写真を撮っていた」と松浦さん。
実家を片付けた際、当時撮影していたネガフィルムを発見したが、フィルムが湾曲するなど変形し、加水分解によって酢酸臭もするようになるなど経年劣化が進む「ビネガーシンドローム」に侵されていたという。
定年再雇用を終えた6年前、数多く見つかったフィルムのうち、救えると判断したものをデジタル化することを決断した。湾曲したフィルムを固定する専用カバーを自ら製作し、押さえたフィルムを一コマごとデジタル一眼カメラで撮影してパソコンで加工する作業を進めた。
フィルムのデジタル化の作業を説明
「昔から白黒写真の引き伸ばしをやっていて、その時の経験からフィルム面を安定させるには縁をしっかりと押さえることが大事なことは分かっていたので自分でカバーを作った。フィルム1本を取り込むのに20分はかかった。全体でどのくらいかかったかはよく分からない」という。
今回は「当時の猫を世に出したい」という思いから写真集を制作した。制作作業は昨年秋から進め、表紙や各ページのデザインなども松浦さんが自ら手がけた。
写真集の表紙なども自らデザインした
「ボス的な猫、猫の群像、猫の変わったしぐさ、空飛ぶ猫、チラ見をしている猫、室内の猫、雪と猫、どこにも当てはまらないジャンルフリーな猫の写真とテーマごとにまとめてページを進め、最後にどういった場所で撮っていたかが分かる写真を置き、全体がフェードアウトするような形にした。今までの集大成という気持ちで作った。猫好きは当然として、写真が好きな人にも見てもらいたい」と松浦さん。
制作に携わった同社の山崎領太郎さんは「この色調、コントラストを出すのにはだいぶこだわった。猫の写真は世の中にいっぱいあるが、松浦さんの優しい人柄が出ていて、猫の視線になっている写真集になった。撮っている人と猫との距離感がものすごく近く、親しみのある猫がたくさんいる。眺めると癒やしになるし、当時の風景の懐かしさもある。私としてもとても新鮮なものになった」と話す。
仕様は、縦23センチ、横21センチ、64ページ。価格は1,760円。