八王子在住の写真家・小松由佳さんが6月中旬から、シリア難民の取材を行うに当たりトルコ南部・シリア国境付近の街に向かう。
シリア人の夫を持ち、2008年からシリアに関わってきたという小松さん。2011年から始まったシリア危機以後は現地で難民となった人たちの姿を取材しようと、シリアだけでなく、ヨルダンの難民キャンプなども訪れてきた。2016年には人々の暮らしぶりを写真とともにまとめた「オリーブの丘へ続くシリアの小道で ふるさとを失った難民たちの日々」(河出書房新社)を出版したほか、昨年は「まちなか交流・活動拠点 kikki+(キッキプラス)」(八王子市八日町)で作品展を開くなど精力的に活動している。
シリアを脱出した多くの人たちが逃れたのがトルコ。今回は1カ月間にわたり、シリアから新天地に移り住み、新たな暮らしを始めている人たちの日常を取材する。「内戦から7年がたち、難民も多様化している。故郷から逃れてきた人たちが、すぐには故郷には戻れないことをだんだんと受け入れて、その地に新しい生活を築き始める過渡期にある。そうした生活の変化を取材したい」と小松さん。取材後はメディア展開だけでなく写真展の開催なども見込んでいるという。
取材に向け自身のホームページなどを通してカンパも呼び掛けている。二眼レフカメラ「ローライフレックス」を使っており、「12枚撮りのフィルムカメラで撮影しているため、フィルム代や現像代などのコストがとてもかかってしまう。今回、活動費がぎりぎりということもあり、よりよい取材ができるようカンパを募ることにした」と小松さん。想定の目標額を超えた分については、現地での傷病者や困窮家庭への資金援助に当てることを見込んでおり、「集まれば集まっただけありがたい」とも。
今回の取材では、家が破壊され難民となり、一時各地を転々としながらも、トルコで新たな生活を営み始めている夫の家族や親戚などを中心に取材を行っていくことにしており、彼らと一緒に住み、日常をどのように過ごしているかを写真と映像で記録していくという。「トルコに来て2年目。シリアにすぐ戻るという信念で家電も買わなかった人たちが、戻れないことを受け入れて新たに土地を買って家を建てようとしている。そうした様子を取材したい。難民というと悲惨さや負のイメージがあるが、それよりも今をたくましく生きていることをクローズアップできたら」とも。
夫の家族に会うのは7年ぶり。「内戦が始まる2カ月前に会って以来。内戦中にシリアを訪れたときは『外国人との接触はスパイ活動を疑われるから』と会うことがかなわず、それでシリアの状況が厳しいことを知った。安定してやっと会えるようになった」。2歳の息子を引き合わせることを楽しみにしているほか、「今、妊娠中で秋にも出産予定。子どもが生まれると取材には出られなくなってしまうので、今、行けるときに行きたい。子どもがいて取材に向かうことには意見があると思うが、子どもが2人になってから行くのはもっと大変。『今できることは今やる』というのが信条。息子にとっては父方の祖父、祖母に初めて会う旅になるので、自分のルーツを知ってもらいたい」と小松さん。
「難民を撮るのではなく、今を生きる同じ人間として彼らと接して撮りたい。子連れで、妊娠してということで、通常であればデメリットのほうが多い取材だと思うが、母親だからこそ彼らの生活に入っていける部分もあると思う。今しか撮れない写真を撮りたい」とした上で、「日本ではシリアや難民についての報道は少なくなってきている。でも、難民は増える一方で、国内の情勢が安定してきても故郷に帰れない状態になっている。そのことにあまり目が向けられていない。まず、そこを知っていただきたい。故郷を離れることは人間にとって大変なことだけども、新たな土地で生活を築いていく強さが人間にはあることを伝えたい。興味を持つことで変わると思う」と期待を込める。