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80年以上前の八王子の織物工場、解体前に記録進む VRギャラリー化など目指す

工場内には営業当時の織機などがそのまま残されている

工場内には営業当時の織機などがそのまま残されている

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 八王子で現在、地元織物工場が区画整理によって取り壊されるのを前に記録に残すプロジェクト「街と織物」が進められている。

八王子の織物工場を象徴する「のこぎり屋根」が特徴

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 「日本遺産『桑都物語』推進協議会」が主催、古民家を改修し、ものづくりの拠点を提供するなどしている「つくるのいえ」(八王子市中野上町1)が企画・運営する今回のプロジェクト。奥田染工場(中野上町1)の奥田博伸さんらが中心となって進めている。

 対象となっているのは80年以上前に建てられた中野山王にある織物工場。2009(平成21)年以降は稼働しておらず、織機なども残されたままだが、2月に区画整理事業に伴って解体されることが決まっている。そこで、織物工場があったことを後世に伝えていこうと取材を開始。工場内の織機の保存にも取り組んでいるほか、昨年12月には週末限定でガイドの案内と共に工場を一般公開する「オープンファクトリー」を行ったところ、すぐに定員に達し好評だった。

 「つくるのいえ」では、2020年に「のこぎり屋根の工場建築探訪」と題して、八王子の織物工場を象徴する「のこぎり屋根」を題材にしたコンテンツを自身のサイトに公開した。その制作に当たり、「のこぎり屋根を探しに街を歩く中でこの工場に出合った。オーナーと話したら、1年後に壊されると聞いた。こういう景色は今まで見たことがないし、残っているとも思っていなかったので、どうにかできないかと思った。最初は残したいと思ったが、区画整理ではなかなか難しい。建物が残せないのなら機屋がなくなっていく風景を記録し残したいと思った」と奥田さん。

 「フィールドワークを進めていく中で、どういう暮らしをしていたのかなど魅力的な話をいっぱい聞いた。短期的に注目されることよりも、中長期の視点で街にとって必要なことをやろうと思った。どうしたらこれを未来につなげていけるかが一番大事。八王子の街や織物文化の価値を見える化するのが最大の目的」とも。

 好評だった「オープンファクトリー」について、奥田さんは「記録としてまとめるだけでなく、見てもらおうと思い行った。人が来るとは全然思ってなかった。お子さん連れも多く、『なくなる前に見せてあげたい』と街のことを大切に思っている人たちが来てくれた」と振り返る。

 「歴史上、当たり前のものほど残らない。みんなが価値を感じてこなかったけれど、実は価値があることを見える化することは八王子の織物にとってはとても大事。それを残り少ない時間でやらなければいけない。八王子の繊維産業がこのような状況になってしまっているのは仕方がないことだが、一軒もなくなってしまうような世の中にはしたくない。価値があるなら残したほうが面白い。いろんな人の意見を聞きながら、できる限りのことをやっていきたい」と奥田さん。

 今後はプロジェクトのサイトで、「ご当地ユーチューバー」として知られる洋品店「イツミヤ」(八幡町)の中野智行さんらのインタビューを掲載していくほか、解体後も工場を体験できるようバーチャル・リアリティー(VR)を活用したギャラリーの展開などを目指す。奥田さんは「まだ踏み出したばかり。地域の価値を見直す視点を持ってどう次のプロジェクトに進んでいくか。発表の仕方も含めて、今後詰めていきたい」と意気込む。

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