日本酒を製造する「東京八王子酒造」(八王子市元横山町1)が6月に開業し、新たな日本酒の醸造に向けた準備を進めている。
八王子駅からほど近い料亭「すゞ香」(中町)内に醸造所を置く同社。都市型醸造所として、昨年12月に都内では10番目、令和になってから初となる清酒の酒造免許を取得した。
「SAKEの可能性を広げる、東京八王子クラフト」をコンセプトに据え、これまで調理場だった場所を醸造所として改修した。広さは約40平方メートル。酵母造りのための部屋や醸造タンクなどを設ける。同店の利用客が醸造所の中を見られるよう店側に大型の窓も取り付けた。
屋外には完成した製品を保管するための大型冷蔵庫などを設け、開発から生産、出荷まで全てを担えるようにした。同店の玄関側には今後、完成した酒を一般向けに量り売りするなどショップ機能を担うスペースも設けた。現在は実験的に酒を醸造するなど本格的な生産に向けた準備を進めている。
八王子産の酒米で造る純米吟醸酒「高尾の天狗(てんぐ)」の醸造元で知られる「舞姫」(長野県諏訪市)の蔵主で、酒造りを通して八王子のまちおこしを進めているNPO法人「はちぷろ」(元横山町1)などに携わる西仲鎌司さんらが一念発起し、今回、新たな醸造所を立ち上げた。
2015(平成27)年に初めて「高尾の天狗」を世に送り出したときから、将来的に八王子で醸造をしたいと語っていた西仲さん。「もともと八王子の高月地区に醸造所を作ろうと思っていたが、コロナ禍で日本酒の消費が落ち、すぐには戻らないと思ったので、大きな醸造所を作るよりは小さくやろうと思った。コロナで『すゞ香』も大変だった。あの場所を使って何かできないかという話になり、偶然が重なり醸造所を作ることになった」と話す。
今回、念願かない八王子に醸造所を設けたことについて、「成功するか失敗するか分かるのは数年後のことだと思う。ひとまず10年かかって免許が取れた」と西仲さん。「『東京八王子クラフト』と呼んでいるが、八王子の米を主体に柱となるお酒を1種類か2種類か決めたら、酵母との組み合わせなどいろんなことにチャレンジをして、手作りで常に違うものを提供できたらいい。日本酒では今までそういうものはあり得なかった」と話す。
「ここでは『高尾の天狗』は造らない。八王子の米、水を主体に造る」と明言した上で、「普通の酒蔵のタンクと比べたら、10分の1くらいの規模だが、こういう場所だからできることがいっぱいある」と西仲さん。「日本酒は消費量が落ちていて、特に若い人に飲まれていない。日本酒を飲んでなかった人が興味を持ってもらえるようなものを作っていきたい」とも。
杜氏(とうじ)を務める磯崎邦宏さんは「小さな規模なので、成功するか失敗するか分からないが、自分たちが試してみたいことがやりやすい環境。伝統を守りながらもいろいろな新しい武器を入れ、周りの環境を生かしながら、いろいろな酒造りに取り組めると思う。まずは基本となる酒を仕上げたい」と意気込む。