
太平洋戦争の戦跡「浅川地下壕」を取り上げた書籍「浅川地下壕 八王子に眠る東京都最大の地下壕」が8月1日、刊行された。
清水工房(八王子市追分町)の出版事業部門「揺籃(ようらん)社」から出版された。これまで八王子や多摩地域を中心に戦時下のさまざまな問題を調査・研究してきた斉藤勉さんが書き下ろした。
高尾駅南西側の尾根にある「浅川地下壕」は当初、陸軍浅川倉庫として掘られ、1945(昭和20)年まで存在した飛行機メーカー・中島飛行機の地下工場にもなった。総延長は約10キロ。現在は東京工業高等専門学校(東京高専、椚田町)の学生が壕内で3次元測量などを行ってデジタルアーカイブ化に取り組んだり、地元有志の「浅川地下壕の保存をすすめる会」が壕内の見学会を行うなど保存・活用に向けた取り組みも進められている。
斉藤さんは八王子市郷土資料館(上野町)が1985(昭和60)年に編さんした「八王子の空襲と戦災の記録」、八王子市が2017(平成29)年に市制100周年記念として刊行した「新八王子市史」、市発行の「八王子市戦跡マップ」、2020年8月に出版された「ガイドブック 八王子の戦跡」(揺籃社)などの制作に携わったほか、1991(平成3)年には自ら浅川地下壕を取り上げた書籍を出版した。
今回は戦後80年を踏まえ、同施設の建設決定から工場への転換、戦後の取り組み、同施設を巡る自然保護や保存・公開の市民運動の変遷、今後に向けた話題などについて一冊にまとめた。
編集に携わった清水工房の増沢航さんは「『浅川地下壕の保存をすすめる会』が、フィールドワークのガイドブックを2005(平成17)年に刊行したが、20年を経て紹介した建物や施設がなくなるなど大きく変化した。この20年を含めた戦後80年間の出来事を歴史としてとらえ、浅川地下壕の計画や工事の概要にとどまらず、保存・公開に至る過程も含めた全体像が紹介できるような一冊に仕上げた」と話す。
同施設をより多くの人に知ってもらおうと制作にあたっては、さまざまな資料や図版を使って解説したほか、建設から敗戦、保存・公開に至る運動までの歴史的事実について、正確な情報を紹介することを心がけたという。
「浅川地下壕は都内最大の地下壕だが、残念ながら八王子市民の誰もが知る場所にはなっていない。本書を通じて高尾山のすぐ近くにこれほど大規模な戦跡が残っていることを多くの方に知っていただきたい。斉藤さんが監修した『ガイドブック 八王子の戦跡』と共に戦後80年の節目に市内にはまだこんなに戦跡があることを知ってもらえたら」と増沢さん。
判型はA5サイズ。64ページ。価格は660円。