同寺は1490年に開山。「八王子七福神」の一つである新護弁財天を祭る。今年に入ってイラストレーターのとろ美さんがイラストを担当した「萌え看板」を設置したところ、インターネットを中心に大きな話題を集め、大手メディアも取材に殺到。その後、同寺住職の読経を携帯電話向けに配信するサービスや「八王子いちょう祭り」に合わせてメード喫茶を出店するなど、話題に事欠かない。
GONZOはコンピュータグラフィックを駆使したアニメーション制作で知られ、直近では「ストライクウィッチーズ」「シャングリ・ラ」「咲-Saki-」などのアニメを担当。その卓越した技術力はPerfume「ポリリズム」のミュージックビデオなど、アニメ以外の場でも発揮されている。
今回、了法寺のキャラクターをさまざまな形で商品化する「商品化権」を同社が担当。「八王子いちょう祭り」に合わせ、11月18日からソニー・デジタルエンターテインメント(中央区)が同寺のキャラクターを使った携帯向けデコレーションメールの配信を開始するなど、プロジェクトは既に動き出している。
今回は「看板の仕掛け人」三井さんと商品化の立場からかかわる吉田さんに「これまで」と「これから」を聞く。
■いざやってみて、おかしさに気付いた
-メード喫茶をやって、率直な感想は?
三井「自分が『メード喫茶やったら?』って言って始めて。いざやってみて、『あ、お寺でこういうことすると、こんなにおかしいんだ』と感じました。あんまり何も考えないで、単純に『メード喫茶』って言っていたので。お墓の前でメードさんが歩いていて、これはって…(笑)」
吉田「不思議な感じになるのかと思いきや、意外とほのぼのとした感じで」
三井「お祭りの出店みたいな感じなので、違和感はむしろないんですけど」
吉田「みなさん楽しんでいただいていて、いい雰囲気かなと」
-メード喫茶の後は?
三井「とりあえず『花祭り』というのがありまして。4月8日に…」
吉田「お釈迦様の誕生日ですね」
三井「そこで何かをしようとは思っています。何をやるかは決めていないですけど」
-GONZOとしては?
吉田「何らかのコンテンツの開発というか、商品の実現は考えていきたいですね。いくつかお声掛けはさせていただいていて、検討段階に入っているものもあります。まだ具体的に発表できる段階ではありませんが」
■思いついたことからやっていく
-今回、メディアが大きく反応しているが?
三井「『まちおこし』をしたいと思い始めたところがあって、メディアがこうやって紹介してくださる割には、こちらは地元のほうに働きかけていないので、そこら辺がちょっとおろそかになっていますね。『ローカルから広げたい』というものなのに…」
‐目標は?
三井「八王子全体でこういう感じのお祭りができて、そしてなおかつ、外国人が『日本で面白いことをやっている』といって来てくれるようになるのが最終目標ですね」
-目標達成までにはどのくらいの時間を考えている?
三井「そんなの全然考えていません(笑)。思いついたことからやっていくということで…」
■看板立てて、メード喫茶やっただけ
-GONZOとしては今までのキャラクタービジネスとまた違う路線だと思うが?
吉田「弊社はアニメーション制作の会社なので、最終的には何らかの映像を作りたいというのは当然あります。ただ、それは全国で放送するようなテレビシリーズというよりかは、地元に根付いたような形で考えたいので、八王子限定でどこかの劇場で公開するとか、八王子に来ないと見られないというような形からスタートなのかとは思っています」」
-映像を作るということは、その先もあると思うが?
吉田「そこで広がって人気が出て、全国で見たいという話になれば、DVDやシリーズ化というものも当然考えます。そこまでやれるのであればやりたいなと。具体的なものはありませんが」
三井「だって、看板立てて、今回メード喫茶やっただけなので…(笑)」
吉田「良くも悪くも皆さん注目はしていただいているので、面白い広がりはできるのかなとは思っています」
-グッズなどは?
三井「考えています。とりあえず、お守り、文房具類は展開したい。鉛筆とかペンケースとか、クリアファイルとか…。今回、子どもさんが結構来てくれていて、Tシャツなどは高いので、おこづかいで買えて、そして、普段使ってもらって愛着をもってもらえるようなものと考えると、文房具とかがいいかなと…」
-売るとしたらどのような形で?
三井「あまり卸す気はありません。やってもネット通販くらいかなと…。そこまで営業できません、二人しかいないので(笑)」
吉田「その辺りは今後、大きな扱いをしても面白いということになったら協力いただいて…というのはあると思います。ただ、積極的にという段階までにはいっていないと思っています」
-「八王子まつり」を始めとしたイベントへの参加は?
三井「それはもう積極的に。『八王子まつり』の時には何かしたいですね。ただ、コミケの前(注1)なので、みんな忙しくてどうかなとは思っていますけど…(笑)。とろ美さんのようにコミケに出展される方はきついかもしれないですけど、メードカフェとかは逆にやれるかもしれない。やれるような形でやろうと思います」
-最後に、ここまでの騒ぎになると思っていた?
三井「全然(笑)。看板を普通に立てても通り過ぎられてしまうし、『お寺の看板か』と見られるだけだから、その防止のためにやったようなものなので…。だから、こんなになるとは思ってもいなかった」
吉田「本当にもっとのんびりと、じっくりと盛り上がっていくのかなと思っていましたが、メディアへの露出の仕方は半端がない感じで、ちょっと驚いています」
-では、今後もゆっくりとやっていく?
三井「そうですね。マイペースというか、今までのような形でやっていければなと思っています」
吉田「八王子から出てきたキャラクターということは大事にしたいので、一気にバン!と広げようということは基本的には考えていませんね」
-3年とか5年とか長いスパンで考えていくプロジェクトということ?
三井「そうですね。でも、そんなタイムスケジュールも作っていないので…(笑)。できる範囲でやっていきます」
【取材後記】
取材は「いちょう祭り」に合わせて行われた同寺のメード喫茶の前で行った。約3時間に及ぶ取材で気づいたのは、そのほのぼのとした雰囲気だ。大人はもちろん小中校生や年配の方も多数、寺へと足を向けた。「学校で配るから」と当日配布していたキャラクター入りのポストカードを何枚ももらっていった子どもたちもいた。当日、弁天様のコスプレをしたとろ美さんと一緒に写真を撮っていた中には親子連れも多かった。「アキバ系」と言われがちなこの手の企画にしては、あまりにも異例なことだ。
今回話を聞いた三井さんや吉田さんだけでなく、プロジェクトにかかわるスタッフの間に共通してある思いは「いかにして街を楽しく盛り上げていくか」というもの。目標はあくまで「八王子を盛り上げること」。プロジェクトはまだ始まったばかりだ。
【注1】「コミケ」は東京ビックサイト(江東区)で年に2回行われているイベント「コミックマーケット」の略。「八王子まつり」は例年8月第1金曜から3日間の日程で実施されており、夏の「コミケ」はその直後のお盆休み期間中に行われる。