
日野市が7月30日、版画家で作家の蟹江杏さんが市内の小中学校と図書館に自身の著作を寄贈するなどの企画を行うと発表した。
日野市出身で、ロンドンで版画を学んだ後、絵画のほか舞台美術や壁画制作、絵本など数多くの作品制作に取り組んできた蟹江さん。創作活動の傍ら、東日本大震災で被災した子どもたちに向け、さまざまな活動を行うNPO「3.11こども文庫」を立ち上げるなど子どもたちとアートをつなげる活動も進めている。
蟹江さんはこれまでも、日野市とさまざまな形でコラボを行っており、2月には「子ども包括支援センター みらいく」(日野市神明1)で、蟹江さんと子どもたちによるライブペインティングを行った。昨年度まで日野市教育委員会の評価委員を務め、市が昨年4月に策定した「第4次日野市学校教育基本構想」のリーフレットのデザイン作成にも携わった。
今回は蟹江さんが昨年5月末に出版した自身初となる小説「あの空の色がほしい」(河出書房新社、四六判、224ページ、1,980円)を基に、日野市と蟹江さんが連携して、さまざまな企画を行う。
蟹江さんは同作品の書籍を日野市内の小中学校25校、図書館7館、移動図書館1館にそれぞれ1冊寄贈する。市内の小中学校では、2学期以降に蟹江さんによる「特別授業ワークショップ」を開催する。小学校では小学4年生を対象に作中に登場する内容を基にしたワークショップを、中学校では講演会を行う。今秋から来春にかけて、日野市立図書館主催で同作品をテーマにしたPOP募集も行う。
絵を描くことが好きな日野市に住む小学4年生が登場する同小説は出版後、全国学校図書館協議会(文京区)が「選定図書」に指定したほか、7月23日には小学館(千代田区)主催で9月に受賞作品を決める「小学館児童出版文化賞」に「読み物」ジャンルでノミネートされた。
蟹江さんは「日野市で生まれ育ち、今回の小説は日野市を舞台にしている。2つの川が流れていて、川沿いにはたくさんの植物があり、そこで小さい頃は遊んだ。その景色などが私の基本になっていて、それを主人公に託して、日野市のすてきな景色を絵のように描写したいと思い本を書いた。1988(昭和63)年の話なので、今の子どもたちとは生活習慣も違うが、普遍的なものを書いたつもり」と話す。
今回の日野市との連携について、「今回、私は本を各学校や図書館に寄贈したいと思った。日野市の子どもたちにたくさん読んでいただいて、日野市の中で私が育んだことを皆さんに伝えたい」と蟹江さん。
発表当日は、日野市役所で蟹江さんが古賀壮志日野市長に書籍を寄贈したほか、古賀市長が蟹江さんに感謝状を贈った。
古賀市長は「日野市の子どもたちのために書籍を寄贈していただき心より感謝申し上げる。私も日野市で生まれ育ったので、蟹江さんの話を聞き、幼い頃の経験を思い起こした。今、子どもたちはさまざまな課題の中で成長している。壁にぶつかっている子どもたちにとっても大きなヒントを得ることができる作品ではないか。図書館にも寄贈されるということで市民の皆さんにも幅広く手にとっていただき、蟹江さんの小説の世界観に触れていただけたら」と話す。