八王子市内を通る甲州街道(国道20号)沿いの商店街「八幡上町商店街くらま会」で現在、地元の偉人をモチーフにしたベンチを作る「八王子偉人紋様ベンチプロジェクト」が進められている。
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース4年の「阿智(あち)」さんと同大絵画学科油画専攻4年の「岐阜東寺」さんによるユニット「帰幽(きゆう)」や、東京芸術大学大学院美術研究科油画専攻修士2年の春田紗良さんとコラボして行っている今回のプロジェクト。
商店会が所有するベンチ8台に地元に伝わる偉人をモチーフとした紋様を施し生まれ変わらせるもので、武田信玄、徳川家康に重用され、徳川幕府時代に勘定奉行、老中を務めた大久保長安や江戸中期から後期にかけて活躍した俳人・榎本星布(せいふ)、武田信玄の五女・松姫、八王子市出身の医師で第2次世界大戦後、感染症の治療に尽力し独・ヴリーツェン市で亡くなった肥沼信次など7人を取り上げている。
昨年末から進めてきたという今回のプロジェクト。阿智さんは「約30の案を出した中で、『偉人ベンチ』を作ろうということになった。商店会の方とやり取りしながらも学生が主体となって進めた。100年後もポジティブな目で見てもらえるといい」と話す。
岐阜東寺さんが友人であるという春田さんをつなげてみたら面白いのではないかと思い付き、このメンバーで企画を進めることとなったという。「帰幽」の2人は下調べや商店会との調整などを行い、春田さんがデザインや実際の作画を行うスタイルで作業を行った。
「何が一番良いのか作家と商店会の間をすり合わせていった。かなり良い形で落とし込めた」と岐阜東寺さん。市民に使ってもらうということもあり、「歴史的なリサーチ以上に、ベンチに塗料を乗せても劣化しないようにするにはどうしたらいいかなどに時間を掛けた」とも。3Dプリンターでベンチのミニチュアを作り、塗料を塗っては確認するなど工夫したという。
実際にデザインや作画を手掛けた春田さんは、「名前の文字からカラーリングを決めた。リサーチしてもらった歴史や人柄ともマッチするように厳選した。紋様は伝統のものを使いたかった」と話す。作画作業は1日1台のペースで進めた。「アトリエに運んで行おうかとも思ったが、八王子で使うものなので、なんとか八王子で製作できないかと思った。街を通り掛かる方に声を掛けていただいて、それがいい刺激になり製作の意欲が湧いた。使っていただいた時にちょっとでも、その方の生活に差し込めるようなものになれたらいい」と期待を込める。
同会に携わる写真店「桃屋美術」(八王子市八幡町)の春日晃さんは「15年ぐらい前から使っていて古くなってしまったベンチを、目を引くアイコンにしたいと相談したのがきっかけ」と話す。2013年から大久保長安ら偉人を紹介する企画を進めていたことや、「ベンチの数と偉人の数がちょうど同じだったこともあって、それぞれのベンチを偉人をモチーフとしたものにすることにした」とも。
桃屋美術が定休日の際には、店前を作業場として開放。「バス停の前ということで、バスの中から見ている方もいたし、通り掛かりの方が話し掛けていくこともあった。商店会としても街を歩いてもらうことが目的なので、彼女たちが活動していることはすごいことだった」と同じく同会に携わる遠藤度量衡(八幡町)の遠藤佳孝さんは評価する。
同会では8月、昔の八王子の写真を商店街に展示する「ぶらり、おもひで散歩。」を行う予定。遠藤さんは「こんなすごいものができるとは思っていなかった。お披露目会をやりたい」と意気込む。