奥田染工場(八王子市中野上町1)が工場の一部に「布類計画室」を開設して3カ月がたった。
明治期に現在の葛飾区で創業し、1932(昭和7)年から八王子にある同社。西東京バス・浅川橋バス停から徒歩6分の場所にあり、シルクスクリーン印刷を中心とした製作を行う。染色について学ぶ講座「奥田塾」や、古民家を改修し、ものづくりの拠点などの場として提供する「つくるのいえ」などのプロジェクトも手がける。
「布類計画室」は2月17日にオープンした。自社のオリジナルテキスタイルブランドで、同所のオープンに合わせて立ち上げた「ironie(イロニエ)」の紹介コーナーなど布にまつわる物を展示するギャラリースペースや、区画整理に伴って解体された八王子の織物工場で使われていた織機などを動態保存するラボスペースなどから成る。5月5日・6日には染色した布の販売会を行うなどイベントも開いている。
ものづくりのアイデアや技術を集め、新たな布の可能性を試す場所として同社の奥田博伸社長が中心となり企画。奥田さんも自らDIYを行い、2021年末から工事を進めた。もともとは布に柄を印刷する「捺染台」などがあった作業場で、今回は壁に開口部を設け大型のガラス扉を設置したほか、譲り受けた糸巻き機を解体し、その一部をテーブルの脚として再利用した。
しかし、昨年10月に奥田さんが急逝。今回、遺志を継いだ人たちの手で作業を進め、オープンにこぎ着けた。
奥田さんの妻で、「つくるのいえ」の活動などに携わってきた大原麻実さんは「ここは布を計画する場所。私たちが思いついたアイデアから布を実験的に作っていくところにしたい。テキスタイルを学んだ経験を生かしてワークショップも開いてみたい」と話す。ギャラリーの展示物は季節などに応じて変えていく予定。
織機は10年以上使われておらず、「職人に使える状態にしてもらうところから始めた。編み機や組ひも機などもあるので、糸が布になり、その布が形になるまでの工程が集約されている。子どもたちは八王子を『織物の町』と学ぶが、実際に布が作られる風景を見ることはほとんどない。そういった人たちが知る窓口にもなれたら」と大原さん。
「イロニエ」は、テキスタイルデザイナーに加え、建築家や写真家、ランドスケープデザイナーなど同社とかかわりがある人たちにデザインを依頼。現在は生地として販売しているが、今後は製品の販売も見込む。
「奥田染工場はこれまでいろいろな人たちと交流を図ってきた。そこで、自分たちでデザインをするのではなく、多岐にわたる分野の方にデザインをお願いすることにした。それによって、表現にどういった幅が出るのかを実験する試み」と大原さん。「春夏秋冬のような時季ではなく、必要な時に必要な分を作り、それを必要な方に届けたい。シーズンにとらわれないことが自分たちらしい」とも。
「『奥田染工場ギャラリー』ではなく、『布類計画室』という名前なのは八王子の繊維産業がここにあるという思いから。ものづくりをしている人との交流はより豊かになると思うし、ものづくりをしていない人の入り口にもなる。これまでも奥田染工場は工場なのにいろんな人が行き交う場だった。それがより加速していくと思う。面白がってもらえたら」と大原さん。