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「車が良いだけでは勝てない」 工学院大学ソーラーチーム、10月に世界大会へ

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 工学院大学八王子キャンパス(八王子市中野町)に拠点を置く「ソーラーチーム」は10月13日、オーストラリア大陸約3000キロを走破する世界最大のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(BWSC)」に参戦する。今回は渡豪を前に監督を務める同大機械システム工学科の濱根洋人教授らに話を聞いた。

■「車が良いだけでは勝てない」

-大会開催まで1カ月を切り、先発隊が出発する時期になりましたね。

濱根教授 「9月17日に私を含めた3人、21日に4人、残りは28日、10月5日と4段階に分けてオーストラリアに向かいます。ドライバーも含めた主要メンバーは21日には行ってもらって、アデレードから逆走してもらいます。そして、一つ一つ現地で練習してもらおうと思っています」

-300人にもなるチームですが、現地での体制はどうなりますか。

濱根 「総勢40人、ソーラーカーを入れて車8台で行きます。偵察、気象、メディア、トランスポーターも含めて動くと。今、チームマニュアルというものを作っていて、分刻みでシナリオも書いています。スタートする前日、誰が駐車場に車を置き、ホテルの鍵は誰が担当し返すか、レーススタートの1時間前に誰がどう動くかまでのストーリーを書いた秘密のマニュアルを作り、それを1冊の本にしています」

-事前の準備が大事なわけですね。

濱根 「現地で走り込むのがうちの戦略です。2015年の大会で準優勝(※1)と成功できたのは、現地で相当走り込んだことにあると思っています。オーストラリアの道路でコントロールストップの練習をするとか、パンクしたときにいかに早く動くとか。今は現地でなるべく多く走るための準備をしているところです。今回、コントロールストップではドライバーが1人で動かなければなりません。とにかく現地でミスがないように詰めていって、向こうに行ったら毎日走り込むと。最低1000キロは走る計画を立てています」

-レースではエネルギーマネジメントも重要です。

濱根 「1秒1分詰めていく必要があるので、この時間に到着したら太陽パネルをどの角度でどの位置に置くかまで緻密に計算しています」

安部達哉さん(エネルギーマネジメント担当、修士2年) 「晴れの場合だけでなく、曇りや雨のときのこともシミュレーションして、どの天候が来ても対応できるように準備していますね」

濱根 「前回大会では天候が悪く途中で雲に引っかかってしまいました。水蒸気や雨が降らないような薄雲も気象衛星を使ってかなりの高解像度で見ることができるので、どう動いたら雲を抜けていけるのかその場で計算し判断していきます。総合力が必要で車が良いだけでは勝てません」

-世界大会だと他のチームとの駆け引きもありますね。

尾崎大典さん(キャプテン、学部4年) 「前回の大会では意思表示をしないと簡単に丸め込まれてしまう(※2)と感じたので、言うところはちゃんと言わないといけないと思っています」

■「レースに勝つと割り切って王道で行く」

-新型車両(※3)の手応えは?

濱根 「いろんなチームが新車を発表する中、私たちのチームがなぜああいう形になったのか、ようやく分かっていただけるようになってきたかと思います。恐らくどこも太陽パネルに影ができないようにしたいのですが、設計していくとなかなか難しくて、キャノピーの配置が影にならざるを得なかったりします。私たちの、全く影を作らない、その上で、空力も最適化しているコンセプトに『やられたかも』と思っていただけているならうれしいです」

-先代のソーラーカー「Wing(ウイング)」の後継というものは考えなかったのですか。

濱根 「まったく考えなかったですね。今までは『工学院オンリーワン』でずっとやらせていただいたのですが、今回はレースに勝つと割り切って王道で行こうと思いました。ただ、『コンサバで勝つ』といっても最適化ができていないとトップは取れません。一生懸命に考えた末に生まれたのが今回の『Eagle(イーグル)』です」

-これまでに3回出場しています。その経験は生きていますか?

濱根 「2013年の車の名前は『Practice(プラクティス)』、まさに練習でした。初出場で何も知らなかったこともあり、いっぱい失敗もしました。次の大会のソーラーカー『OWL(オウル)』は試走で相当走ったので、それが準優勝という結果につながりました。そして、2017年はちょっと奇抜すぎてしまったかなと。今回は今まで出てきた悪いところを踏まえて、良いところを足し算している感じですね」

■今大会は「接戦になる」

-今大会の注目ポイントは?

安部 「後半の戦いでいつ勝負を仕掛けるのか、天候を見てどういう選択を取るのかがかなり重要になってくると思います。最初はかなり拮抗するのではないでしょうか。そこから転機をどうつかんで、どう勝負を仕掛けていくかをしっかりと決められるように準備をしています」

濱根 「彼が言ったように接戦になると思っています。3日目ぐらいからどのようなところで勝負をかけるかが重要になってくるんじゃないでしょうか。私たちはドライバーが全員学生なので、体力と精神面も見ながらシフトを考えていて、天候で変えようかという話もしています。スタートや風が強いエリアなど、テクニカルなところも含めて計画しています」

-気になるチームはありますか?

尾崎 「国内では東海大学はギリギリであっても最終的な結果を残しているので、あなどれないと思っていますし、海外チームが強いことは熟知しています。レースの中でメンバーがどう動けるかが大きな差を生むんじゃないでしょうか」

濱根 「怖いのはミシガン大学。単胴型の中では空力で磨きをかけてきています。私たちは空力の心配はしていないですし、入ってくるエネルギーが大きく晴れると強いと思うので、そこをエネルギーマネジメントや天気予報を基に作戦を変えていくことがポイントになると思います。いかに入ってくるエネルギーを使うかですね。中盤、後半での戦略争いとミスがないようにすることが大切です」

-1カ月後にはレースが始まります。

濱根 「2年前、前回のレースが終わってからすぐに動き出しました。スポンサーを巡って歩くところから始まっています。製作にも時間がかかりました。今までどれだけの時間と人を費やしてきたかと思うと本当にここまで長かったです。今、『SDGs』(※4)ということが言われていますが、ソーラーカーはサスティナブルな将来に貢献できる要素がいっぱいあると思います。そこで、学生の皆さんには海外の方たちと張り合えるということを学んでほしいと思います。世界の人たちで競争する、その中で何を身に着け、将来何をやるのか考えるエンジニアになってほしいです」

-ありがとうございました。

※1:実用車に近いレギュレーションが設定されている部門「クルーザークラス」に参戦。クラストップでゴールするも優勝は逃した。
※2:前回大会では、レース途中、ボディーを拭いているところを太陽電池パネルを冷却していると見られ、米国のチームがクレームを付けたことから、ペナルティーも含めコントロールストップで1時間にわたり停車することを求められた。
※3:単胴型で全長約5メートル、全幅約1メートル、約150キロ、化合物系太陽電池であるガリウムヒ素の太陽電池パネルを用いた4代目となるソーラーカー「Eagle(イーグル)」を6月27日に発表した。
※4:「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」の意味。

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