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被災地で回収された写真を持ち主の元に-大妻女子大生も協力

東京では学生たちの手によって写真のレタッチが行われている

東京では学生たちの手によって写真のレタッチが行われている

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 日本社会情報学会(事務局=広島県呉市)「災害情報支援チーム」は現在、東日本大震災で被害に遭った写真を持ち主の元へと返すプロジェクト「思い出サルベージアルバム・オンライン」を進めている。

現地での写真の洗浄作業

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 大妻女子大学(多摩キャンパス=多摩市唐木田2)社会情報学部の柴田邦臣准教授を中心に進められている同プロジェクト。同学会「若手研究者支援部会」のメンバーなどを中心に結成された同チームが宮城県山元町と都内などをつないで実施している。

 柴田さんは地震発生後、「パソコン関係の相談役」として現地の避難所やコミュニティーFMなどで支援を実施。そうした活動の中、「時がたつにつれて、人物や風景など写真の印刷についてのニーズが多くなってきた」と柴田さん。津波で海水に漬かった写真が被災者から持ち寄られたことや、がれきの解体などの際に自衛隊が集めた写真やアルバムなどが多くあることから、被災者との日常会話をきっかけに現地の災害対策本部からの要請を受け、「写真をきれいにして被災者の手に戻す」プロジェクトが立ち上がった。

 対象となる写真は約20万枚。4月中旬以降、研究者や大学院生などを中心としたコアメンバー約20人に加え、現地のボランティア、プロの写真家、富士フイルム(港区)やニフティ(品川区)などの企業や行政なども協力。写真洗浄・複写・レタッチ・展示・被災者への返却と段階に分けて担当者を配置し、それぞれの部門の担当者に全権を与えて対応に当たっている。「日頃はメーリングリストでやり取りしているほか、必要なことはGoogleドキュメントを通して情報も共有している」と柴田さん。

 目標は「被災したアルバムを半永久的に返却し続けられる環境作り」。写真は現地でデジタル化まで行い、同大学多摩キャンパスで学生、レタッチ技術を持つボランティアらの手によってレタッチなどを施した後アーカイブ化して、展示などの被災者へ戻すための作業に入る。「被災者にはお年寄りが多く、重いアルバムを開いてみるのは大変」と柴田さん。「表紙とサムネイルだけ展示するとか、担当者が教えながらでもパソコンで確認できることはデジタル化のメリット」

 プロジェクトを進めるに当たっては、ツイッターの存在が大きいと柴田さん。「水や泥をかぶった写真は洗浄後デジタル化するが、写真そのものをカメラで撮るしかない状況。撮影に当たってはカメラやライティングについての知識が必要ということで、呼びかけたところ有名なフォトグラファーなどプロのカメラマンも協力してくれることになった」。今では毎週末にカメラマンが現地でデジタル化作業に当たるなど、「直接会ったことがない人も動いてくれている」という。

 今回の震災で人口の約5%を失った山元町。地域で維持されてきた行事や写真など町の記録も大きく失われてしまった。「子どもたちにとってはルーツそのものがなくなってしまったようなもので、それは町の歴史の断絶を意味するかもしれない」と柴田さん。「歴史を取り戻すためにはITしかない。無くなってしまったからこそ、最高のITを導入されるくらいの幸運はあっていいのでは」。町の歴史の伝承にも効果があることを期待する。「写真のサルベージは私たちにしかできないこと。被災した卒業アルバムの共有化なども進めて、地域で共有する方向もできれば」

 洗浄作業まで来ているのは現時点で全体の3分の1ほど。「梅雨に入ったので、写真にカビがつくのが気になる」と柴田さん。現地ボランティアが進める写真の泥落としや洗浄などの作業は時間との勝負だが、「夏までには終わらせたい」と意気込む。持ち主への返却などについては今後、企業の協力なども得ながら顔認識技術の活用なども試していくという。

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