八王子市内の書店で8月上旬から、八王子市制100周年を記念し地元の電車とバスの歴史をまとめた本「八王子の電車とバス」が販売されている。
フリーペーパー「はちとぴ」などを発行している清水工房(八王子市追分町)の出版事業部門「揺籃(ようらん)社」から刊行された同著。八王子の歴史や交通史研究などで数多くの著作を手掛け、昨年9月に亡くなった清水正之さんが生前残した資料や原稿を基にまとめられた。
「八王子の電車」「八王子のバス」の2つの章を設け、馬車の時代から現代までを見開きで体系的に紹介。鉄道については、廃線となった京王御陵線や玉南電気鉄道、計画段階で頓挫した南津(なんしん)電気鉄道といった路線も写真付きで紹介するほか、市制60周年の際に京王電鉄が発行した記念乗車券や高尾山を走るケーブルカーの開通記念乗車券などの写真資料をまとめたカラーページも設けた。
市制100周年に向け新たな本の準備を進めていたという清水さん。昨夏、病に倒れた後も、清水工房で編集などを手掛ける山崎領太郎さんを病床に呼び出し出版に向けた準備を依頼するなど、その思いは熱いものだったという。清水さんの娘で三女の節子さんは「筆談で会話をするのだが本のことばかり。山崎さんに来ていただいたのは亡くなる3日前。来ていただいたら目をきらきらとさせてうれしそうだった。これで本ができると本当に安心したのだと思う」と振り返る。
制作に取り掛かったのは今春から。「タイトルや表紙のデザインまで作られていたので、その思いを受け継いだ」と山崎さん。清水さんから託された原稿では既刊本を基にまとめ直す形となっていたが、ビジュアルでも見せようと清水さんの書庫から写真などの資料を探し出し1カ月かけて編集した。「以前訪れたときには書庫に入れていただけなかった。今回、編集することになって初めて入らせていただいたが、ちゃんと分類がされていてすごかった」とも。
校正は家族が担当。「本人が見るわけではないが、父の名で出すものなので独特の言い回しなど気になるところがあってもそれは生かした」と節子さん。
次女の陽子さんは「父は自分が作りたいものを作るという人。もし本人が作っていたら違うものを作っていたと思うが、みんなで作った一冊となったので、喜んでくれているのでは。父は亡くなってしまったが、本を開いた瞬間に父は生きていると思う。これからも父は本の中で生き続けていく」と完成を喜ぶ。
山崎さんは「清水さんは郷土愛というものを強く持っていて、これまで八王子の歴史や街、交通の本を作ってきたのだと思う。市制100周年で注目が集まる時にもう一回振り返ってほしいという思いでまとめられたのでは。その思いをくんで作ったので、いろんな人に届けばいい」と話す。
B5判、94ページ。価格は1,200円(税抜)。