工学院大学八王子キャンパス(八王子市中野町)に拠点を置く「ソーラーチーム」と工学院大学付属中学校・高等学校(中野町)自動車部が、国内で行われるソーラーカーレースに相次ぎ参戦する。
鈴鹿サーキットでのレースに参戦する工学院大学付属中学校・高等学校自動車部のメンバー
同中高の自動車部は、7月31日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で行われる「FIA Electric & New Energy Championship ソーラーカーレース鈴鹿2021」の5時間耐久レースに部として初参戦する。同大学のソーラーチームは8月9日から、秋田県大潟村で2年ぶりに開かれるソーラーカーレース「ワールド・グリーン・チャレンジ2021」に出場する。
2009(平成21)年に活動を始めたソーラーチームは、2018(平成30)年に行われた「ワールド・グリーン・チャレンジ」でグランドチャンピオンに輝いた。2019年にオーストラリアを舞台に行われた世界最大のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(BWSC)」ではクラス5位に加え、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)から日本勢としては史上初となる特別賞「テクニカルイノベーションアワード」も授与された。
自動車部は、ソーラーチームの監督を務める同大機械システム工学科の濱根洋人教授が講演を行ったことをきっかけに同チームと関係ができた。同チームは、2013(平成25)年に当時の「ソーラーカープロジェクト」がオーストラリアを走らせるために作り上げたソーラーカー「Practice(プラクティス) 驍勇」を自動車部に寄贈。現在は同チーム監修の下、自動車部の部員が自ら車を整備している。
自動車部の顧問を務める島田浩行教頭は「濱根先生が古い車を捨てるというので、下さいとお願いした」と話す。大学と高校は道を挟んで向かい合っており、「すぐ来られて、すぐ面倒を見てもらえるこの環境が良い。私が教えられないことを大学生から習うことができ、生徒たちとの交流も深まっている」とも。島田さんによると、工学院大学と付属高が深く連携して一つのプロジェクトを進めるのは今回が初だという。
今回は3年生も含めて鈴鹿の大会に初出場する。「本来ならば受験を前に引退の時期。ただ昨年はコロナで大会がなく、全く何もないまま終わってしまうのも悲しい」と島田さん。「せっかくソーラーカーを始めたので、これで終わりではなく今後も継続していければ。工学院大学はソーラーカーで有名だが、実は付属の高校もソーラーカーをやっているということをこの大会で広めたい」とも。
自動車部の部長で、今回の大会ではドライバーも務める3年生の四條鈴華さんは「ソーラーカーは幅や大きさが車と違い最初は戸惑った。試走する中で感覚をつかんできた」と振り返る。初めての鈴鹿でのレースには、部員の中から選ばれた10人で臨むという。レースを前にタイヤ交換などさまざまな練習も重ねており、「とりあえず完走したい」と四條さん。「どれだけエネルギーを使わないで走れるかに注目したい。楽しみながら安全に完走する」と意気込む。
「ソーラーカーレース鈴鹿」は今回で終了することが発表されている。四條さんにとっても受験を前に最後の活動となる。「大学に行った後もみんなでやりたいねという話はしている」と四條さん。濱根さんは「一番は楽しんでほしい。その上で、予選で行くところまで行ってほしい」と期待を込める。
約100人から成る大学の「ソーラーチーム」は、2019年のBWSC以来のレース参戦となる。昨年からチームに参加し、4月からキャプテンを務める機械工学専攻修士1年の松田直大さんは、国内外でのレースは未経験だが自らキャプテンになることを志願したという。「世界大会に出ているチームのリーダーを経験できるのはとても貴重な体験。素晴らしい経験になると思い、自分を成長させたいと思った」と松田さん。
今大会にはチームの中から20人が秋田に向かい、2019年にオーストラリアを走ったソーラーカー「Eagle(イーグル)」でレースに挑む。「今年はチームがガラッと変わり、新体制になっている。レース経験や今までの技術を濱根先生やOBなどから聞き、しっかりと対策を練っている。今年の夏は新しい工学院大学を見せることができたら」と松田さん。車体は風を味方に付けられるように改修し、今月上旬には現地で試走も行うなど準備を進めているという。期間中はキャンプ生活となるが、調理の代わりに保存食を活用するなど工夫する。「オーストラリアでチームとして得たノウハウをしっかり生かして、感染対策も徹底しながら、新しいチームで活動していきたい」とも。
5度目の優勝を狙う今大会。「一番の倒すべきチームは過去の工学院大学の先輩たち」と松田さん。「コロナ禍ということで、昨年は大会がなくなってしまった。2年も大会がないと技術の引き継ぎなどチームの存続にも関わってくる。秋田の大会が開催されるのが楽しみ」と期待を込める。
濱根さんは「コロナで1年間大会がなかったので、学生の動きが一番気になっている。車が良いだけでは勝てない。レース経験をしていない人がどうやってチームの中に入れるか。コロナ禍の中でのチーム作りの戦いになるのでは。設計をしていても、手を動かしたりレースを経験したりしていないから雲の中にいるようで感覚をつかみにくい。実践が大事。良い車があっても、100点満点から何点減点されていくかを抑えるのがソーラーカーレース」と話す。
「新キャプテンの松田くんはレースを見たこともないが、リーダーをやりたいという意気込みが強い。そのリーダーの精神力が一番にチームに効いてくると思う。そういう意味でも、松田くんは良い」と濱根さん。2023年に開催される予定のBWSCも見据え、「大学だけでなく高校生も監修しているので、将来に向けて教育の架け橋を作り続けたい」と意気込む。