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多摩美と東大の学生が共同で人工衛星開発-来年7月の打ち上げ目指す

人工衛星の開発に携わる東京大学工学部の学生と久保田さん(右から2番目)

人工衛星の開発に携わる東京大学工学部の学生と久保田さん(右から2番目)

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 多摩美術大学(八王子キャンパス=八王子市鑓水)と東京大学(文京区)で現在、アート活動への利用を目的とした超小型衛星の開発が進められている。

学生と議論

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 多摩美大情報デザイン学科の久保田晃弘教授を中心に進められている同プロジェクト。人工衛星をアートの分野に活用したものとして、「衛星芸術プロジェクト」と名付けられ、在学生、卒業生、関係者などさまざまな人を巻き込んで展開している。

 これまでは東大生が開発し、2009年に打ち上げられた人工衛星「PRISM」のセンサーデータを基に作曲する「衛星音楽」や、光の明るさを調節する「衛星家具」などのインタラクティブなアートを展開。大学のカリキュラムの中にも取り込み、さまざまな表現を行ってきた。

 「宇宙にあるメディアを使って、宇宙と日常をつなぐトンネルなようなものができるというメタファーから出発している」と久保田さん。「宇宙で起こっていることを科学、技術の文脈というより、日常の環境や感覚で伝えていくようなものを作る」とも。しかし、「送られてくるデータは作品を作ることを目的としていないので限界がある」として、今回、独自の衛星開発に踏み切った。

 開発を進めているのは1辺が10センチ、重さが1キロ以内の超小型人工衛星「CubeSat(キューブサット)」。「芸術衛星INVADER(インベーダー)」と名付け、昨年12月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)が来年7月に予定している全球降水観測衛星「GPM」の打ち上げに「相乗り」することが決まった。「通信衛星、気象衛星などと同じように芸術のための衛星になる」と久保田さん。

 本体の開発などは東京大学、八王子キャンパスに設ける予定の人工衛星をコントロールする地上局や関連プログラムの開発などは多摩美術大学の学生がそれぞれ中心となって担当。最初のステップに当たる「ブレッドボードモデル」の開発を本年度中に終わらせ、実機のサイズに収めるエンジニアリングモデル、実際に打ち上げるフライトモデルの開発へと進めていく方針。

 開発に当たっては、「みんなの衛星」「感じる衛星」「美しい衛星」の3つをモットーに掲げ、オープンソースのハードウエア開発環境「Arduino(アルドゥイーノ)」も活用。衛星のセンサーにアクセスできるようにするなど一般にも開かれた衛星の開発を目指す。

 開発に携わる東大工学部航空宇宙工学科3年の尾崎さんは「今までの衛星は科学目的のものが多く、携わっている人も限られている」としたうえで、「芸術から宇宙という分野に入ってくることで、宇宙工学は新しい分野に進むし、宇宙開発も進むと思う」と期待を込める。

 打ち上げ後は、2年間にわたって地球の軌道上に置かれる予定。さまざまなアート活動に用いるほか、ソフトウエアから機能を利用するための窓口になる「API」を公開し、誰でもデータを利用した作品を作れるようにする。「このプロジェクトは今までやってきたものの一つの集大成」と久保田さん。「工学で学んだこと、美大で学んだことを総動員して、今まで科学技術の分野だったところにどうやって本格的に芸術が入っていけるかの第一歩にしたい」と意気込む。

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