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「1年のうち5カ月は旅をする」-写真家・三井昌志さん

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■「写真を撮るときに、言葉はあまり必要ない」

‐今回出版された「スマイルプラネット」はどのような本でしょうか?
三井 「アジアの笑顔を集めた写真集ですが、ただの写真集ではありません。一人の旅人がこの世界を見つめた、『物語』が織り込まれたメッセージブックです」

‐タイトルの由来は?
三井 「『ひとりひとりの笑顔がこの星を輝かせている』。このメッセージを伝えるタイトルを、と考えていたら自然に浮かびました」

‐笑顔が印象的な写真が多いのですが、実際どのような感じで撮影されているのでしょうか?
三井 「写真を撮るときに言葉はあまり必要ありません。逆に言えば、現地の言葉を話せないからこそ、カメラを向けてシャッターを切るというアクションをコミュニケーションの道具として使えるのです。カメラを通じて相手に『あなたは今とても輝いている』と伝えているのです」

■「旅に出るつもりも、写真家になるつもりもなかった」

‐前職はどのようなお仕事だったのですか?
三井 「機械メーカーのエンジニアです」

‐勤めていたメーカーを退社して、ユーラシア大陸一周の旅に−安定した生活を捨てて、旅に出たのですか?
三井 「仕事を辞めたことと、旅を始めたことの間には直接の関係はありません。上司に会社を辞めたいと告げに行ったときに、『どうして辞めるんだ?旅にでも出るのか?』と聞かれたんです。『いいえ、そんなつもりはありません』−僕はそう答えました。全くの本心でした。旅をしたこともなかったし、パスポートも持っていませんでした。旅というものに興味を持つようになったのは、それから数カ月後のことです。人生というのは本当に面白いものだと思います」

‐写真を始めたきっかけは?
三井 「本格的に写真を撮るようになったのは、旅を始めてから。最初は長旅の記録になればいいなという程度でした。もちろん写真家を目指すつもりもありませんでした」

‐そこから最初の写真集をお出しになるわけですが、やはりホームページの力大きかった?
三井 「そうですね。僕の場合は、ほぼ100%ホームページの力です。写真界にも出版界にも何のコネクションもなかったし、有名な賞をもらったわけでもないし、写真家に褒められたこともありませんでしたから。自分の力だけで発信できるホームページというものの可能性、それが与える影響力を信じていました。それは今でも変わりません」

‐笑顔が印象的な写真が多いのですが、実際どのような感じで撮影されているのでしょうか?
三井 「写真を撮るときに言葉はあまり必要ありません。逆に言えば、現地の言葉を話せないからこそ、カメラを向けてシャッターを切るというアクションをコミュニケーションの道具として使えるのです。カメラを通じて相手に『あなたは今とても輝いている』と伝えているのです」

■「下調べはしない」

‐日本人も滅多に行かないようなところに足を運ぶことが多いと思いますが、下調べはしますか?
三井 「下調べってほとんどしません。いつも気の向くままにバイクを走らせるというのが、僕のスタイルです。第一、調べようがないんです。『地球の歩き方』にも、『ロンリープラネット』にも、何にも情報がないようなところばかりを旅するわけですから(笑)。朝、安宿で目を覚まして地図を広げるんです。そして、その日の気分次第で行く場所を決める。その自由な感覚がとても気に入っています」

‐命の危険を感じるような出来事はありましたか?
三井 「そういう経験は意外に少ないんです。内戦をやっているような国もありますけど、戦争そのものを取材しているわけではありませんから。一番恐れているのは交通事故ですね。インドやベトナムの交通事情というのは、実際に走った人ならわかると思いますが、ほとんど悪夢です。無秩序で無茶苦茶。そういう交通カオスのなかを、おびえながら走っています。サバイブするためには臆病ぐらいがちょうどいいんです(笑)」

‐1回の旅でどのくらい撮影しますか?
三井 「僕は1年のうち5カ月ぐらい旅をしています。今年の旅では5万枚ほど写真を撮りました」

‐旅を切り上げられるきっかけ、タイミングはどのようなときに来るのでしょうか?
三井 「充電池と同じで、旅にもエネルギー切れというのがあると思います。旅を続けるだけの好奇心や体力が無くなってくるというか。僕の場合は、4、5カ月でエネルギーが切れてくるようなので、そのあたりで切り上げることにしています」

‐費用面での苦労もありますか?
三井 「うーん、お金のことに関していえば、そりゃ楽ではありませんが……。でも、好きな旅をして、写真を撮って、それで暮らしていけるのなら、こんなに幸せなことはないと思います。リスクは確かに大きいですが、それも含めて僕はこの人生を楽しんでいます」

‐この「スマイルプラネット」をどんな人に読んでもらいたいですか?
三井 「誰でもいいです……というのは冗談ですが、でも本当に幅広く読んでもらえる本だと思います。この間六本木でイベントをしたときに、6歳の女の子が来てくれて、『スマイルプラネット、とても面白かった』って言ってくれたんです。小さな子どもにもメッセージがちゃんと伝わっているということがとても嬉うれしかった。その一方で、僕のことをずっと応援してくれる70代のご婦人もいらっしゃいます。戦後の混乱期に学校に行けなくて、72歳の時に夜間中学に入って勉強を始めたというすごい人です。『心に余裕がなかったけれど、笑顔の写真から力をもらった』という人もいます。『この本を読んで旅に出たくなった』という人もいます。それぞれの人の心に、違ったかたちで届くような本だと思います」

‐ありがとうございました。

【あとがき】
「12月の初めには、また次の旅に出る」と話す三井さん。今回は東南アジアからスタートするという。「毎年日本が寒くなると旅をして、暖かくなると帰国する」−自らを「渡り鳥」と称する三井さんが、次の旅で何を撮ってくるのか、気になるところだ。

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